旅の絵本
この記事を書いた人

YUKA_chakuso-media editor in chief
東京生まれ。
途中経過でオーストラリアに育ち、
少しのあいだ、インドネシアで暮らしました。
赤い色とノラ・ジョーンズの声が好き。
ライフワークは旅で、今はポルトガルとハンガリーに行くことを夢みています。
昭和のエッセンスがほどほど残る、超テレビっ子世代のクリエイティブディレクターです。

安野光雅先生の『 旅の絵本 』を 初めて読んだのは、小学生の頃でした。
絵本の中を旅するのは、名前も言葉もない一人の旅人です。
どこから来たのか、どこへ向かうのか・・・幼い私はページをめくるたびその人を一生懸命追いかけていました。
カラフルで温かな街並み、小さな遊び心があちらこちらに隠されていて、何度見ても飽きることがありません。
安野先生の『 着想 』の素晴らしさは、旅という行為を 単なる移動や観光ではなく、
より深く、より自由な「心の冒険」として描き出したところにあるように思います。
誰の言葉も借りず、説明も与えず、
絵の中に無数の物語を宿らせることで、
読む私たちのそれぞれが、自分自身の想像力で世界を旅できるようにしている。
この静かで大胆な表現は、当時の子どもだった私にも、今の大人の私にも、限りない自由を感じさせてくれます。
見えるものだけでなく、見えないものまで描こうとする視線。
私が旅が好きになったのは、紛れもなくこの本が影響しています。
静かに流れる川の音や、石畳を踏みしめる足音に、
まだ言葉になる前の世界への憧れの種や、先生の『着想』の原点を見てみたい。
いつか安野先生の生まれ育った、津和野の町を訪れてみたいです。
先生が幼い頃に見た光や影、四季の移ろい――
それらが、あの豊かな想像力を育んだのだと思うと楽しみでなりません。